Yuya Kumagaiのオフィシャルなブログ

ギタリストやカメラマンやロマンチストなどなどやってる熊谷勇哉による何気無いブログ。

「人生に少しのスパイスを」

良いなと思った映画を観るとまるでその世界にいったかのような気分になってしまい、暫くの間だけ自分の数%だけその人になってしまう。

俗に言う共感性羞恥とは異なり、感受性に関わる事なのだろう。映画を観ている時は観客として物語を追っているのだけれど、エンドロールが流れる頃には全ての流れを汲み取ったかのようにインプットの整理が始まる。映画の内容について熟考し、決してハッピーになり過ぎず、また決して深刻になり過ぎない。エンドロールは僕にとって重要な時間である。ここで帰ろうものならどんなに結末がハッキリしていたとしても数日はにえきらない気持ちで過ごす事になるだろう。そうしていよいよ全編が終わった頃、帰り道は既に僕のものではなくなっていて、段々と物語が薄ら垣間見えてくる。厄介な事に、映画館で観た帰りはいつもそうなってしまう。

例えば、ピクサーのものを見れば、なんだって上手くいきそうな人になるし、ゴッサムシティの1人に出会えばまるで労働階級者の匂いをちらつかせたがるし、1人のニューヨーカーに魅了されてしまえば今にも些細なことが素敵に感じられてしまう。たくさんの物語が自分の知らない世界に連れて行ってくれる、こんなに素敵なことはそうそうない。映画を観るだけで素晴らしい体験ができるのだから。

とまあそれで済めばこの話はもう全て良い話で終わってしまうんだけど、こんなにも主役に影響されてしまうと厄介が過ぎる。まるで自分は役者かのようになりきりたい欲望に駆られ、そしてまたそういった映画に出会いたくなる。その延々のループにハマってしまった。思っているよりも単純な人間なようなので、どんなに悲劇的な末路であろうとその人間の美しい部分が魅力的に映りすぎてしまうのだけれど、これまた新しい自分を見つけたかのようにニヤリとしてしまう。これを人はナルシストというのかもしれないが、魅力的な映画に出会う度に自身が変化してしまうさまが想像以上に楽しいのでやめられない。味をしめてしまったのだ。

 

繁華街を歩き回っていると目紛しく変わる顔に目が行きがちであるのだが、不思議なもので群衆の中にいると自身の孤独が寂しさから来るものでなく多すぎる存在の数々に打ち消されてしまう事による空虚から来ているものだと気付いてしまった事に気づく。ハッとして足元を見ると、自分の影はどこにも見当たらないどころか、人々の足によって視界は埋め尽くされていてまさに一寸先は闇であった。人間は本当に恐怖を感じてしまった時ほど後ろを振り返ることは出来ないもので、ただひたすら人混みを掻き分けながら流れに沿って進むことしか出来なかった。

すぐ横の路地に身を寄せて一息つくとようやく自分の影を見ることが出来て少しホッとする自分がいた。大都会とはこの事を言っているのかもしれないなとクリスタルキングを聴きながら少しセンチメンタルな気持ちに駆られる。ビルとビルの隙間から人の行き交う姿が絶えず映し出され、まるでそれは秒針があの速度で動いている理由を教えてくれているようだった。

路地を抜けると客引きの兄ちゃんたちがメニューをくるくると手のひらで回して暇を潰しているのを見つけては、あっちに行ってしまえば面倒だからと道の端っこを小走りで通り過ぎる。これじゃまるで逃走している人っぽいのでわざと周りを気にしながら少し俯き気味に歩くことにした。だが案外人は声をかけてくれないものだ。地味ハロウィンというものが流行っているからハッシュタグでも付けて投稿してみようかと思った。思っただけで何も普段の日常と変わらなかった事に気づいてしまったので、つまらんことを考えてしまったなーとぼやいた。

なんやかんやで喫茶店を見つけたので入ってみると、昭和を感じさせる内装で素敵な場所だった。今なら出てきたコーヒーを眺めながら何か物思いに更ける風を装えるとか思ったりして気が落ち着かなくなったので、早くも飲み干してしまった。

果たして今の自分は何者か分からないまま、手書きの伝票の会計を済ませ、またさっきの街に出てきてしまった。

なんと不思議なことに外の様子は一変していた。夜の街へと変化してしまった繁華街でイヤホンを装着し、メロウで不穏なビートに身を任せて心を遊ばせた。華やかな空気を弄んだ。

この街で今、たったひとりの主人公になった。

全てが退屈に感じ始めたのをきっかけにプロローグが始まる。たったひとりの平凡な日常は物語に変わったのだ。

 

エピローグに飲み込まれた彼はどこに行き着いてもプロローグに出会う。退屈な人生を少しのスパイスで何者でもないかもしれないものに突然出会い、恋に落ちてしまった。2人は堂々巡りを繰り返すのだが、その先で待っていたものとは、、、。

アカデミー賞受賞作品が贈る少し辛口なロマンティックストーリー。あなたもあなた自身に恋をしたくなるかも?

 

 

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